SPECIAL COLUMN

#18「私が求めていたほどは、私が満たされるほどは」/妹尾ユウカ

身を隠すように離れたい。バーで落とした小さなピアスのキャッチみたいに、上手に姿を消してしまいたい。

恋人との別れを考える時、いつもそんなことを思ってしまう。お互いのパーソナリティーやライフスタイルを尊重した、穏やかな別れ話など出来るはずがない。そんなことが可能ならば、別れはやってこなかっただろう。最後に上手な話し合いが出来るならば、その都度分かり合えたはずだ。

いつも思うの

「頭でもぶつけて忘れてくれないかな」
何度、何人に願ったことだろう。誰の手も煩わせない、自然災害や単独事故に望みを託す。
私、死んだふりだってしたこともある。すると、大抵24時間以内に「無視?」「もういいわ」といった高圧的なメッセージが届き、深夜は不在着信で携帯が壊れそうになる。それからさらに12時間が経つと懺悔が始まる。「俺が悪かった」「最後に話がしたい」と。その頃、私には話したいことなど一つも残っていない。今、CICADAで女友達と新しい男の話をしているんだ。邪魔をするな。

戻らないあの頃に囚われる

始まりはいつも美しいから、最後が散々でも無理はない。私が選ぶ男はいつも、1年続けられないようなことを最初の3ヶ月間、全力でやってみせる。その最大瞬間風速に乗せられて、これまでに元カレが何人も出来た。

そのせいで、愛の終わり際にはいつも同じことを思う。「出会った頃に戻りたい」と。友人から「彼のどこが好きなの?」と聞かれると、最後は答えに困る。出会った頃の彼が好きだったから、恋をした。そして、その頃の彼では無くなったから、好きではなくなった。これに尽きる。

「出会った頃に戻りたい」というのは、具体的にどういうことなのかというと、お前が私にベタ惚れで、多少の無理をしてでも私といたいと思っていた頃、そして、それを感じ取れる言葉や態度が確かに存在していた頃。まだ縮められる距離感がわずかに残っていた"あの頃"に戻りたい。留まりたい。ということだ。

妹尾ユウカ

独自の視点から綴られる恋愛観の毒舌ツイートが女性を中心に話題となり、
『AM』や『AERA.dot』など多くのウェブメディアや『週刊SPA!』『ViVi』などの雑誌で活躍する人気コラムニスト。
その他、脚本家、Abema TVなどにてコメンテーターとしても活動するインフルエンサー。

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